気がめぐること
当院が採用する井上系経絡治療は、”気がめぐる”ことを第一とします。
中国伝統医学における気とは、外から把握できる身体の運動、変化を総じて表す言葉です。

 気とは不思議な概念では無く、微細な物質でもありません。また修行で見えるものでも有りません。ただ、身体のさまざまな運動と変化を、”気がめぐる”と称するだけのことです。
人体をめぐる気
 人間は一瞬も休まず、大気を身体に出し入れし、自然の動植物を食べて消化し、栄養を取り込み排泄します。それに伴い体内に熱が起こり、活動の源となります。自然では熱い空気は上に、冷たい空気は下に溜まりますが、人体でも同様の運動が起こります。しかし、それだけでは不十分です。熱が上がったままではのぼせますし、冷たい気が下がったままでは手足や下半身が冷え切ってしまいます。

 体幹より遠い手足が冷えず、頭がのぼせないためには、《熱は上がれば下に降り、冷たい気は下がれば上に昇る》という循環が必要となります。そうすることで、全身が適度に温かく、軟らかい状態が保たれます。
中国伝統医学では、このような体内の循環と、その体表への表れを”気がめぐる”と表現するわけです。
 この循環が良ければ、顔色は良く、呼吸は深く、体調も良くなります。しかし、循環が悪いとさまざまな症状を起こすことになります。
鍼灸治療と気がめぐること
 中国伝統医学の特徴をうまく表現する言葉に「病の応(おう)は大表にあらわる」という語が有ります。体内の変化は全て外に表れるというものです。
 本来の鍼灸の見立てと治療は、外から見える変化、声の大小、顔色、皮膚の色つや等を介して、体内の気の循環を見ることを基本とします。中でも、脈診と、全身の所見である大小便、食事、睡眠、生理などの観察が大事です。

 脈は呼吸に対応して一定の速さでリズミカルに拍動します。たとえば日が出入し、潮が干満するのと同様です。脈動の適度な軟らかさ、速さや流れのリズムは、気がめぐることの重要な指標になります。また、大小便、食事、睡眠は、一日たりとも避けられない基本的な現象です。
 当院において、どんな症状でも、脈診と大小便食事睡眠の状態を伺うのはそのためです。
腰痛や肩凝りなどの主訴は大事ですが、外の表れの一部に過ぎません。
鍼灸治療の効果と長期の目標
 鍼灸治療の効果としては、
①脈がリズム良く拍動すること、脈の輪郭が軟らかくなること、
②皮膚が明るくなり、色つやが良くなること(特に眉間や両乳間)、また少し赤みを持ち、わずかに汗ばむこと、
③全体が少し軟らかくなること、堅い場所が少し緩むこと、
④眠くなること、気分が落ち着くこと、
⑤声が通ること、
などが大事な項目となります。

 これら治療の効果は”少し変化する”ことが重要です。長時間の施術や、急激な変化は、消耗した身体には大きな負担となります。
その人がどれだけ消耗しているかを見きわめ、それに応じて気をめぐらせる必要が有ります。

長期的な結果として、
毎日の大小便、食事、睡眠、生理が調い、季節や年齢に合った体調になり続けることが重要です。
これらの基本的な働きが調うことではじめて、症状は”まいた水が乾くように”自然に寛解していくのです。
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